アトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎とは
アトピー性皮膚炎はどんな病気?
アトピー性皮膚炎のメカニズムは最新の研究によりより明らかになってきました。そのため診断と治療も患者さんの状態に合わせて科学的に行うことができるようになりました。
皮膚は体に良くないアレルゲン(ダニ、花粉、カビ、ペットのフケなど)が入らないよう皮脂の膜と皮膚の表面の硬い膜(角層)のバリアを作って守っています。
アトピー性皮膚炎の患者さんでは角層の弱い方や皮脂の少ない方が多く、バリアが弱って、乾燥してひび割れた状態が見られます。このような皮膚ではアレルゲンが入りやすくなります。アレルゲンが皮膚に入ってしまうと、白血球が皮膚へ寄っていき、アレルゲンがついた皮膚を壊して小さな水ぶくれを作ってアレルゲンを体から出す反応をします。これが皮膚炎(湿疹)です。皮膚炎ではジュクジュクした浸出液がでます。これにはアトピー体質を作る白血球や痒み成分をだす細胞を引き寄せる成分や、増やす成分(Th2型サイトカイン)が含まれており、皮膚炎が続くと皮膚が敏感に反応するようになり、アトピー性皮膚炎になってしまいます。
アトピー性皮膚炎は自分を守る反応が過剰になってしまった状態です。
アトピー性皮膚炎の診断
アトピー性皮膚炎は患者さんそれぞれに違った原因と病状があります。
多くの患者さんは乾燥肌で、皮膚から入ったアレルゲンに敏感に反応して皮膚炎を起こす“外因性アトピー性皮膚炎”です。皮膚の状態をみて診断することが最重要ですが、アトピーの重症度を測る検査(IgE-RISTやTARC)やどのようなアレルゲンに反応する抗体を持つかをみる抗原特異的IgEを検査することにより、病状がよくわかり、治療の目標になるほか、日常生活で気をつけることがよくわかるようになります。この検査としてMAST36, View39のほか、当院では1滴の血液で41種類のアレルゲンに対する抗体が1時間以内に院内で測定できるドロップスクリーンの検査を行うことができるようになりました。
また、10%前後の患者さんはIgEが高くない“内因性アトピー性皮膚炎”というタイプもあり、皮膚の変化を細かくみて治療する必要があります。
アトピー性皮膚炎の治療と予防
外用薬の役割
アトピー性皮膚炎を治療には、まず、今起こっている炎症を素早く止めて、皮膚を壊れないようにしていく必要があります。
ステロイドやプロトピック®軟膏(タクロリムス)、コレクチム®軟膏(デルゴシチニブ)、モイゼルト®軟膏(ジファミラスト)などの軟膏でまず炎症を止めていきます。それぞれの患者さんの個々の体質や病状に合わせて最適な薬剤を選択し、早く炎症をとめて症状を取るとともにアトピー体質がひどくならないようにします。
炎症が治まれば、その状態に合わせ、維持療法用の薬剤へと変更していきます。炎症が落ち着くと、バリアも改善して外用薬を塗る範囲や頻度も少なくすることができます。
内服薬の役割
アトピー性皮膚炎は痒みが強くひっかいてしまいます。皮膚をひっかくと肥満細胞から痒み成分(ヒスタミン)が出て、さらに痒みが強くなり、バリアも壊してしまいます。
外用薬も痒みに有効ですが、かゆみの成分ヒスタミンを抑える抗ヒスタミン薬(抗アレルギー薬)を同時に使って行くとより早く治療ができます。
ひっかかれた皮膚は炎症やアトピー体質を強くする成分(Th2型サイトカイン)を出すので、抗ヒスタミン薬の内服はアトピー性皮膚炎の改善に役立ちます。
皮膚外用薬治療
外用薬は、患者さんのその時々の皮膚の状態に最もあったものを選んで治療してゆきます。
ステロイド(副腎皮質ステロイド)外用薬
アトピー性皮膚炎治療の標準治療薬として世界中で使われています。炎症や痒みを取る効果が強く、速く効くので非常に有効な薬剤です。
副腎皮質ステロイドはヒトの体内で作られる自然な物質で体の中で代謝され排泄されますので、体内に蓄積されることはありません。
アトピー性皮膚炎の炎症も体内(副腎)で作られる自前のステロイドで押さえようとしていますが、対応が追いつかない状況ですので、外から塗り薬で助けてあげることになります。外用薬に含まれるステロイド薬は皮膚で効いて分解され易く、全身への影響が少ない設計になっています。注意を払いながら妊娠中にも使える薬剤です。
弱点としては、体の皮膚ではあまり起きませんが、顔面には長期使うと皮膚が薄くなり血管が開いて赤ら顔になってしまうことです。
現在は以下に述べるタクロリムス軟膏などの免疫をコントロールする外用薬がありますので、副作用を避けることができるようになりました。
また、重症の方が急にステロイド外用薬などを止めると悪化するので、症状の改善に合わせて減量していくことが重要です。
タクロリムス(プロトピック軟膏®)
タクロリムス(プロトピック軟膏®)はステロイドとともにアトピー性皮膚炎の有効な治療薬として使われます。タクロリムスは、放線菌から見いだされた化合物でアトピー性皮膚炎を引き起こす白血球(リンパ球)の機能をコントロールします。
ステロイドも免疫抑制剤ですがその作用がほとんどすべての細胞におよび、効果も副作用も多岐にわたるのにくらべ、タクロリムスはリンパ球に特異的に作用するので副作用が少ないことが特徴です。
プロトピック軟膏は顔面などの炎症症状が強く赤味をともなう皮疹に効果的で、ステロイドが有効でも赤味が強くなることで悩んでいた患者さんに喜ばれています。
ステロイド外用剤のように皮膚萎縮、毛細血管拡張、外用中止後のリバウンドが少ない、目の周囲でも比較的安全に使用できる等の利点があります。
ただ、プロトピック軟膏の問題点は使い始めた時、2~3日間はほてり感やヒリヒリ感などの刺激感がでることがありますが、当院では刺激を避ける工夫を行い、皆さんに使用ができるよう指導しています。症状も1週間もするとほとんど感じられなくなり、顔の赤味やかゆみも減少し、大変良い状態となっていきます。長期に使う維持療法に適した薬剤です。
当院の経験では、毎日使って治療を始めますが、軽快後は1週間に1回の塗布で良い状態を維持できる人や1ヶ月に1-2回程度の塗布で良い人もあります。
プロトピック軟膏の注意する点としては長期使用時に毛包炎、ニキビなどができやすくなることもあります。
発がんの危険が言われていましたが、現在では他の薬剤に比べて多くならないことが報告されました。
ただ、全身への大量塗布により腎障害や高カリウム血症などの報告があるため1日に2回塗布時、1回の使用量は5gまで1日10gまでに抑える事も注意する必要があります。また、紫外線療法との併用はできません。
小児にも使用できる低濃度の小児用もあります。2歳以上で使用が可能です。
コレクチム®軟膏(デルゴシチニブ)
最近発売された前述のJak(ヤヌスキナーゼ)阻害薬の外用薬です。白血球及び表皮細胞のサイトカインの受容体からの情報伝達に関わる酵素(Jak)を広く阻害し、炎症を抑制する薬剤です。
ステロイドと違って皮膚萎縮や血管拡張がありません。タクロリムスのような刺激感がないので使いやすいお薬です。
皮膚から吸収されるので、1日の使用量が10g以下に制限されています。
小児用は2歳から使えましたが、最近、6ヶ月の乳児から使用量を注意して使えるようになりました。
モイゼルト®軟膏(ジファミラスト)
白血球の免疫機能に関わる酵素(PDE-4)を阻害する外用薬です。白血球の細胞内cAMPを上昇させ、炎症を抑制する薬剤です。ステロイドと違って皮膚萎縮や血管拡張がありません。タクロリムスのような刺激感がないので使いやすいお薬です。皮膚から吸収されるので、100cm²あたり1gが使用の目安とされています。
注意点は、妊娠中は使えず、授乳も避ける方が良いとされています。
小児は3ヶ月から使うことができます。
アトピー性皮膚炎のスキンケア
アトピー性皮膚炎の患者さんはバリアが弱い体質の方が多く、アレルゲンの侵入を防ぐため、保湿剤などによるバリアの強化(スキンケア)が必要になります。また、皮膚炎が起こったところは一時的にバリアが無くなっているので回復するまで保湿剤などによるバリアを補強するためのスキンケアが大切となります。
一度治った場所も再発を防ぐためスキンケアを行います。スキンケアに用いる薬は患者さんそれぞれの体質や状態に合わせて処方します。
アトピー性皮膚炎の原因として、重要視されているのは、皮膚の乾燥です。
以下に皮膚の乾燥を防ぐために大切な事を上げます。
①洗浄剤、石ケンを使いすぎない
洗浄剤、石ケンは普通のもので良いのですが、刺激を感じる場合は低刺激のものを使いましょう。アトピーの皮膚はアルカリ性に弱いので、アルカリ性の固形石けんより中性や弱酸性の液体洗浄剤のほうが刺激が少なくなります。
汗が刺激になるので夏は毎日洗浄します。
冬は皮脂を取り過ぎないよう洗浄剤は必要最小限の使用にとどめ、ナイロンタオルなどは使用せず、少量の洗浄剤を手のひらであわだてて軽くこする程度にします。
外用薬を使っているときは毎日入浴、洗浄してください。
②冷暖房は強くしない
冷暖房は強すぎると空気が乾燥し、皮膚も乾燥してしまいます。
特に冬などは必ず加湿する様にしましょう。花粉のシーズンは空気清浄機も有効です。
③シャンプーとリンス
シャンプーは控えめに、2〜3倍に薄めて使用することも有効です。すすぎを十分することが重要です。リンスも良くすすいでください。
④入浴は毎日
少しぬるめのお湯に毎日入りましょう。入浴することで皮膚の表面のホコリやアレルゲンも取り除かれます。
また角層に水分を補給する効果があります。保湿剤入りの入浴剤の使用は効果的な事が多いようです。
⑤入浴後保湿剤をぬる
入浴後よく水分をふきとり、直ちに保湿剤を外用し、水分の蒸発を防ぎます。
白色ワセリン、ヘパリン類似物質(ヒルドイド®など)クリームや尿素系軟膏の上手な使用により軽症のアトピーはコントロールできることがあります。
痒みのある皮膚炎が見られる場合は皮膚科専門医の指導の下で、皮膚の状態に合わせたステロイド剤やプロトピック、コレクチム、モイゼルトなどの過剰な免疫を制御する外用薬の併用が必要になります。
保湿剤にはいろいろなタイプがありますが、患者さんの病状にあわせて選択する必要があります。症状が改善すれば、上記の保湿剤を基本に少量のステロイド等の外用薬の併用だけでコントロールできる例が多く見られます。
アトピー性皮膚炎治療の目標
アトピー性皮膚炎の治療は
①痒みから解放されて、通常の生活ができる
②見た目にアトピー性皮膚炎と判らない程度の皮膚の状態で暮らせる
③週1〜2回の外用治療と毎日の短時間の皮膚の手入れ(スキンケア)
で快適な生活がおくれることを目指します。
手順を踏んで治療していくことにより、多くの方がこのような状態になれますように患者さんとともに努力させていただきます。
また、長年治療しているが赤ら顔が治らないという方もご相談ください。
アトピー性皮膚炎の維持療法
再発を防ぎ良好な皮膚の状態を維持するためにプロアクティブ療法があります。ステロイド、免疫抑制薬外用薬治療で皮疹が良くなった後、維持療法として保湿剤治療に加えて、再発をしそうな部位に週1〜2回少量ステロイドや免疫抑制薬外用薬を使って再発を防ぐ治療です。
当院では皮膚炎の抑制だけでなく、再発を抑え快適な生活の維持が可能になるよう患者さんと一緒に治療をさせていただきますので、わからないことは遠慮無くおたずねください。
症状の重い方の治療
多くの患者さんは上記の治療で改善されるのですが、アレルギー炎症が強く通常の治療では皮膚炎の抑制が困難、業務の関係で治りにくい、外用療法が困難な患者さんでは、免疫をコントロールするシクロスポリンやJak阻害薬の内服、IL-4/13, IL-13抗体の注射による治療を行うことができます。結核の有無の検査(胸部レントゲン:当院は院内で可能)、ウイルス性肝炎、カビの血液検査をおこったうえで治療します。なお治療中や前後で生ワクチン(麻疹、風疹、ロタウイルス、BCG(結核)、水痘(水ぼうそう)、おたふくかぜ)は接種でません。
①シクロスポリンの内服治療
乾癬や膠原病の治療にも用いられるシクロスポリンの少量の内服治療が有効です。全身のアトピーを起こす白血球の機能を抑えて、素早く皮膚の免疫状態やバリアを回復させ、通常の治療へ移行させる治療です。
感染症が無いことを確認のうえ経験のある専門的な皮膚科医のもとで治療します。3ヶ月を目安に治療し休薬します。
引き続き治療が必要な場合は、2週間休薬後、再開できます。病状と副作用を観察するため定期的に診察し使用する必要があります。
グレープフルーツ類の摂取やスタチン系の高脂血症治療薬の併用はできませんのでご注意頂きます。
ジェネリック薬もあるので治療費も高額にならずにすみます。
②Jak(ヤヌスキナーゼ)阻害剤の内服治療
最近使えるようになった過剰な免疫反応を抑える内服薬です。白血球や表皮細胞がつくる様々な炎症を引き起こすサイトカインや増殖因子の機能を細胞内へ伝達する経路を阻害し、炎症を抑制します。6ヶ月以上標準治療を行っても十分な効果が得られず、強い炎症を伴う皮疹が広範囲にみられる場合に使うことができます。バリシチニブ(オルミエント®)、ウパダシチニブ(リンヴォック®)、アブロシチニブ(サイバインコ®)、の3剤があります。
速効性があり、かゆみの抑制効果が特徴的です。3剤にはそれぞれ特徴が有り、患者さんの病状に合わせて使います。ウイルス性肝炎、結核、カビなどの感染症などの有無を検査(胸部レントゲン:当院は院内で可能、血液検査など)のうえ使用します。
帯状疱疹などウイルス、真菌(かび)や結核等の感染症、白血球減少などへの注意が必要なため、専門的な皮膚科医のもとで、定期的な病状の観察と血液・レントゲンの検査を行いながら治療することが必要です。
・バリシチニブ(Jak1,2阻害:オルミエント®):成人4mg/日で使用し、2mg/日に減量していきます。また、小児では2歳から使用可能ですが、30kg以上では4mg/日で使用し、2mg/日に減量していきます。30kg以下では2mg/日で使用し、1mg/日に減量と体重に合わせて使うことができます。
・ウパダシチニブ(Jak1阻害:リンヴォック®):成人は15mgを1日1回内服します。重症例では副作用に注意しながら30mgを1日1回と増量することもできます。小児は12歳以上かつ体重30kg以上で内服可能で、15mgを1日1回内服します。
・アブロシチニブ(Jak1阻害:サイバインコ®):成人ではアブロシチニブとして100mgを1日1回内服します。なお、重症例では副作用に注意しながら200mgを1日1回と増量することもできます。小児は12歳以上で内服可能で100mgを1日1回内服します。
いずれも新しい薬剤のため薬剤費は高くなります。
③アトピー性皮膚炎の抗体療法
IL-4/13, IL-13抗体の注射による治療
6ヶ月以上標準治療を行っても強い炎症を伴う皮疹が広範囲にみられる場合に使うことができます。
抗体療法は効果がありますが、費用も高いので高額医療制度を使うこともできます。
全身療法を行うときは、病状を患者さんに説明し理解していただいたうえ、費用など御希望を聞き、よく相談のうえ決定していきますので、不明な点は遠慮無くお尋ねください。
・デュピクセント®(デュピルマブ)抗IL-4/13受容体抗体
成人のほか、生後6カ月以上体重5kg以上の小児に体重に応じて皮下投与することができます。
白血球が産生する全身のアトピー性の反応を起こすIL-4/IL-13という物質(Th2サイトカイン)を抑制します。
ヒト型抗ヒトIL-4/13受容体モノクローナル抗体デュピクセント®を初回に600mg、2回目以降は300mgを2週に1回皮下注射します。4ヶ月を目安に治療します。外用治療を併用しながら治療します。
アトピー性皮膚炎の診断及び治療に精通している医師のもとで行うことが決められています。
・アドトラーザ®(トラロキヌマブ)抗IL-13抗体
白血球が産生する皮膚のアトピー性の炎症を起こすIL-13という物質(Th2サイトカイン)を抑制します。
成人に初回に600mgを皮下投与し、その後は1回300mgを2週間隔で皮下投与する。
・イブグリース®(レブリキズマブ)抗IL-13抗体
白血球が産生する皮膚のアトピー性の炎症を起こすIL-13という物質(Th2サイトカイン)を抑制します。
成人及び12歳以上かつ体重40kg以上の小児に使用できる。初回及び2週後に1回500mg、4週以降、1回250mgを2週間隔で皮下投与する。なお、患者の状態に応じて、4週以降、1回250mgを4週間隔で皮下投与することができる。
アトピーのかゆみに対する注射薬
・ミチーガ®(ネモリズマブ)抗IL-31受容体A抗体
アトピー性皮膚炎に伴う“痒み”を治療する薬剤です。
白血球が産生するかゆみを起こすIL-31という物質の機能を抑制します。ステロイド、タクロリムスなどの抗炎症外用剤や抗ヒスタミン剤などによる治療を固定で4週間以上治療しても、強い搔痒があり痒みをコントロールできない患者さんが対象です。
本薬剤は“痒み”を治療する薬剤であり、本剤投与中も炎症を抑さえるためのステロイドなど抗炎症外用剤と保湿剤を用いた治療の併用が必要です。
成人及び13歳以上の小児には1回60mgを4週間の間隔で皮下投与します。6歳以上13歳未満の小児には1回30mgを4週間の間隔で皮下投与します。